ガンによる呼吸の機能の低下
なぜ、痩せると命が尽きるのか
「痩せが進み、筋力が減っていくと、呼吸ができなくなり死を迎える」―このシンプルな事実は、がんの最期を理解する上で非常に重要です。
呼吸は、横隔膜や肋間筋といった「呼吸筋」によって支えられています。がんが進行し、全身の筋肉が衰えると、呼吸する力も弱まってしまいます。
咳をする力さえ失われる
筋肉の衰えは、呼吸だけでなく、咳をする能力にも影響します。力強く咳ができなければ、誤って気管に入った食べ物や唾液を外に出すことができず、肺炎を引き起こしてしまうのです。高齢者が誤嚥性肺炎で命を落とすことがあるように、がんで痩せが進むことは、生きるための基本的な機能が失われることを意味します。
炎症が呼吸を妨げる
酸素がうまく取り込めなくなるのは、筋力の低下だけが原因ではありません。肺にできたがんが大きくなると、その周りの正常な組織ががんを排除しようと炎症を起こします。
蚊に刺された部分が腫れるのと同じように、肺の細胞が腫れてしまうと、十分な酸素交換ができなくなります。そのため、肺がんのように急速に大きくなるがんの場合、酸素不足で息苦しさを感じ、それが命に関わる原因となるのです。
がんによる痩せの恐ろしさは、単なる見た目の変化ではなく、生きるための機能そのものが失われていくことにあるのです。
呼吸機能が低下する原因
- 悪液質による呼吸筋の減少
- 痰や唾液などによる窒息
- 肺炎
- 胸水が溜まり肺が膨らまなくなる
- 肺ガン自体の増大と炎症と肺転移
- がん性リンパ管症
以上の6つが主に肺の機能を低下させる原因です。
呼吸機能の低下はどれかひとつが原因となるのではなく、複数の原因が影響して生じます。
悪液質による呼吸筋の減少
多くのがん患者さんは、病気の進行とともに、目に見えて痩せていきます。これは、単なる食欲不振ではありません。「悪液質」と呼ばれる、がんが引き起こす深刻な病態です。
悪液質は、がん細胞が放出する特別な物質によって、体の筋肉や脂肪が異常に消費されてしまう状態です。体は栄養をうまく使えなくなり、ゆっくりと、確実に痩せ細っていきます。
呼吸筋の衰えが、命を脅かす
想像してみてください。全身の筋肉が減っていくとき、呼吸はどうなるでしょうか。
普段、私たちは横隔膜や肋間筋といった筋肉を使って、無意識に呼吸をしています。しかし、悪液質になると、これらの呼吸筋も衰えてしまいます。
十分に息を吸ったり吐いたりできなくなると、肩や背中の筋肉など、全身の筋肉を使って必死に呼吸をするようになります。いわゆる「肩で息をする」状態です。
さらに筋力が低下すれば、体に必要な酸素を取り込むことができなくなり、生命活動を維持できなくなってしまいます。悪液質が、いかに死に直結する病態であるか、ご理解いただけたでしょうか。
痰や唾液などによる窒息、いわゆる痰詰まり
なぜ、がん患者は痰や唾液で窒息するのでしょうか?
普段の生活では考えられませんが、がん患者さんは痰や唾液で窒息することがあります。これもまた、「悪液質」による筋力の低下が原因なのです。
咳をする力さえ失われる
健康な人なら、異物が気管に入っても強い咳で簡単に排除できます。しかし、悪液質によって筋力が弱ると、その「強い咳」ができなくなってしまいます。
まるで年配の方がお餅を喉に詰まらせるように、痰や唾液さえも、十分に吐き出すことができなくなるのです。
試しに、咳払いをしてみてください。健康なあなたなら「ゴホッッ!」と力強くできるはずです。しかし、悪液質になった患者さんは、「コーフ、コーフ」と弱々しい咳しか出せません。これでは、痰を外に出すことは難しいでしょう。
「痰詰まり」が招く呼吸不全
気管に痰が溜まると、空気の通り道が塞がれ、呼吸機能が低下します。これが、いわゆる「痰詰まり」です。
痰が気管に溜まり、血液中の酸素が減ると、意識レベルが低下し、全身状態が悪化します。そして、これが死の原因となるのです。
癌が進行すると、元気な時は簡単に排出できる痰を出すことができなくなります。筋力の低下は単なる体の衰えではなく、生きるための機能そのものを奪っていくという恐ろしい側面を持っているのです。
肺炎:がん患者の死因の一つ
がんで亡くなる大きな原因の一つに肺炎があります。肺炎は、肺の組織が炎症を起こし、血液中に酸素を取り込む能力を低下させてしまいます。
誤嚥性肺炎の恐ろしさ
がんの終末期には、特に誤嚥性肺炎が生じやすくなります。これは、食べ物や唾液が誤って肺に入り、炎症を引き起こす病気です。
物を飲み込む動作は、多くの筋肉や神経が関わる複雑な動きです。しかし、がんの進行によって筋力が弱まると、この飲み込む力が衰え、さらに気管に入った異物を咳で排出する力も失われてしまいます。
痰が引き起こす窒息
肺炎は、肺の炎症だけでなく、痰を増加させます。痰が気管に詰まると、空気の通り道が塞がれ、呼吸機能が低下します。
この状態は、ただでさえ悪液質で呼吸筋が衰えている患者さんにとって、非常に致命的です。筋力の低下により、十分な咳ができず、痰が喉に詰まって窒息してしまうのです。
免疫力の低下
さらに、末期がん患者さんは免疫機能も低下しているため、誤嚥性肺炎ではない一般的な肺炎にもかかりやすくなっています。
このように、がんによる筋力の低下は、呼吸する力そのものを奪い、肺炎という形で命を脅かすのです。
胸水がたまり、肺が膨らまなくなる
胸水とは、肺と胸郭(肋骨や胸の骨)の間の空間にたまる水分のことです。この空間は、肺が風船のように膨らんだりしぼんだりするための重要なスペースです。
この空間に水がたまると、肺が十分に膨らむことができなくなり、息苦しさを感じるようになります。がんが胸腔内に転移すると、胸水が多量に作られることがあります。
さらに、悪液質によって栄養状態が悪化し、血液中のタンパク質が減ると、血管から水分が漏れやすくなります。これも胸水がたまる原因の一つです。
胸水がたまりすぎると、呼吸機能が著しく低下し、命に関わる状態へとつながっていきます。
肺転移や癌性リンパ管症が命に関わる理由
肺は、私たちが生きていく上で最も重要な臓器の一つです。肺がんや他の臓器からの転移によって、肺の機能が奪われると、命に関わる状態になります。
1. 正常な肺が減る
肺がんや転移した腫瘍が大きくなると、その分だけ正常な肺のスペースが減ってしまいます。健康な肺組織が少なくなれば、体に必要な酸素を十分に取り込むことができなくなり、呼吸機能が低下します。
2. 炎症による呼吸困難
肺にできたがんは、その周囲に炎症を引き起こすことがあります。すると、肺は肺炎のような状態になり、酸素を血液に取り込む能力がさらに低下し、息苦しさが増します。
3. 癌性リンパ管症
肺がんが進行すると、肺の中にあるリンパ管にがん細胞が転移することがあります。これを癌性リンパ管症と呼びます。この病態になると、酸素の取り込みが著しく悪化し、非常に危険な状態になります。
このように、肺転移や癌性リンパ管症は、単に肺にがんができるだけでなく、呼吸という生命維持に不可欠な機能を直接的に妨げるため、命に関わる病態なのです。
上に書いた5つの原因により、徐々に酸素の取り込みが悪くなり頭などの重要な臓器への酸素供給が減り、臨終に向かってゆくのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。がんで死ぬ原因の記事に関して多数アップしております。参考にしてください。


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