スピリチアルな辛さは自分が失われる辛さ
「スピリチュアル」とは霊的という意味ですが、霊的という意味をイメージにくいのではないでしょうか?一般的な肉体的な痛み比べスピリチアルな痛みは理解しにくいかもしれません。
痛み(苦痛)は
- 肉体的な痛み
- 精神的な痛み
- 社会的な痛み
- スピリチアル(霊的)な痛み
の4つに分類すると対応しやすいと考えられています。
肉体的な痛みとは指を切った時に感じる痛みです。精神的な痛みとは不安感に代表される苦痛です。社会的な痛みとは、仕事がなくなって困るとか、お金がなくて困るというような苦痛です。
スピリチアルな痛みは、「自分が失われていく辛さ」と考えると理解しやすいです。精神的な痛みや社会的な痛みと共通する部分があるかもしれません。
スピリチアルな辛さを理解すると、周りの人がどのようなことに気遣いすると、本人の辛さを軽減できるかという理解につながります。
スピリチュアル(霊的)な痛みってどんな苦痛なのでしょうか?
コトバンクの定義
終末期患者の人生の意味や罪悪感、死への恐れなど死生観に対する悩みに伴う苦痛のこと。「 私の人生は何だったのか」「生きている意味はあるのか」と思い詰めることで、「魂の痛み」とも訳される。
この苦痛はガンになっていなくても感じています。たとえば、仕事やスポーツで自分の役割を期待されているのに、十分成果をあげられず、情けない気持ちになるのがスピリチュアルペインに近いのではないでしょうか?
失恋もスピリチアルペインに共通する部分があります。
癌終末期のスピリチアルペインに限っては、自分が失われてゆくこと関連する苦痛と言ってよいのではないでしょうか。
ガンになって段々体力が失われ、生きてゆくのが辛くなり、残された人生に生きる意味を見出せないというタイプの苦痛です。
自分の存在意義に関する発言がみられたら、スピリチアルな痛みが生じていると判断できます。
例えば、「迷惑をかけてまで生きてゆきたくない」、「個室に入ったって良くならないんだろう」、「これから何を目的に生きてゆけばいいかわからない」、「私ほど不幸な人はいない」というような発言がみられたら、辛い思いをされており、何らかの助けやケアが必要です。
自己喪失感に伴う苦痛
ガンが進行し、悪液質がすすむと体が衰え、日常生活すら送ることが難しくなってゆきます。
悪液質は体のだるさを引き起こし、意欲が減退させます。今まで周囲の人にしてあげれたことができなくなり、自分の役割が失われていきます。
そのうち自分のこともできなくなり、身近な人の世話にならないと生きてゆけなくなります。
ちょっと考えてみてください。
家族のために何もしてあげられなくなったとき、本人はどう感じると思いますか?
筋力が低下し、自分でトイレに行けなくなった時どう思うと思いますか?
だるくて何も出来なくなったときどう感じると思いますか?
自分自身の役割が失われ、自分の力でトイレに行けなくなった時の自信の喪失は相当大きなものでしょう。
自信がなくなり、自分が生きている意味がないような気持ちになるのは、当然の心の反応ですよね。
スピリチアルな辛さ、痛みを軽減するには?
スピリチュアルな痛みに対しては、自分が今までしてきた業績を再確認してもらうと苦痛が和らぐとされています。
例えば、若い頃してきた仕事の実績の話をしてもらうと、自分自身の歴史を実感できますよね。
自分自身が大切な存在であったし、今もまだその仕事の形跡が残っていれば、なおさら自信を取り戻せます。
ライフレビューを振り返ることも有効です。今まで一番感動したこと、結婚した時、子供が生まれた時、今まで行った国など、人生の歴史を振り返ると自分自身の存在を再確認できると言われています。
また、自分の家族の存在は自分とのつながりを再確認できるので、家族の存在を感じられると、スピリチュアルな痛みを軽減させる効果があるといわれています。
入院生活は家族の絆を感じにくいと言われています。一人一人お見舞いに行くのではなく、家族みんなでお見舞いに行くなどの工夫をすることで、家族の絆をより強く感じれると思います。
「自分が最も不幸だ」と言われる場合があります。
わたしがそのような患者にお会いするときは、当然今のあなたの状況は不幸ではあるが、周囲の人がそばについていたりすることは少なくとも幸せなことと伝えます。
身近な人が、あなたのそばにいることは今までの人生が間違っていなかかった「しるし」であり、その人の人生を肯定するようにしています。
自分の存在を肯定することは、スピリチアルペインを軽減するにはとても効果的です。
スピリチュアルな痛み(辛さ)は身近な苦痛の1つであり、治療可能な苦痛と言われています。
周囲の人であれば、自信を取り戻すためにどんな質問したらよいか、どんな思い出を回想させてあげたらよいかを考えると、スピリチュアルな苦痛の対応ができるのではないでしょうか。
もしご本人でであれば、家族の写真を側に置いたり、趣味や仕事関係のモノを身近に置いて、自分が生きてきた証を実感できると、苦痛軽減が期待できます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
参考文献
- 村田久行:対人援助・スピリチュアルケア研究会2008.12
- WHO:緩和ケアとは、がんの緩和ケアガイドブック、8: 2008.
Doka.K.J:Death and Spirituality, pp. 144-148, Baywood Publishing Company, New York, 1993.
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