がんによる筋力低下(悪液質)について、より分かりやすくまとめました
あなたは、「筋力低下を抑えられたら、末期がんの苦しみは軽減されるのではないか?」とお考えかもしれません。そう考える方は多いでしょう。
しかし、残念ながら、がんによる極度のやせ(悪液質)を予防・改善するのは非常に難しいのが現状です。
重要なポイント
- 予防できるのは初期段階のみ効果的な予防策が期待できるのは、まだ体重減少が始まっていない初期の段階に限られます。
- 一度進行した悪液質は回復が困難これは、極度に痩せてしまった状態から回復させる方法ではないことを心に留めておいてください。なぜなら、がん自体をコントロールできない限り、悪液質だけを有効にコントロールする手段は現在のところ存在しないからです。
- 予防法の科学的根拠はまだ少ない現時点では、悪液質の予防方法として「これは絶対に効く」という科学的な根拠が十分にあるものは少ないということも知っておいてください。
少しでも効果があるかもしれない予防策(初期段階向け)
- 十分な栄養摂取: 特にタンパク質をしっかり摂ること。
- 適度な運動: 体調に合わせて、無理のない範囲で筋力トレーニングや運動を継続すること。
これらは「少しばかり効果があるかもしれない」というレベルで、完全に悪液質を防げるわけではありませんが、試してみる価値はあります。
この分野の研究は続いていますが、現時点では「体重が減り始める前に対策を始めること」が最も重要だと覚えておいてください。
悪液質の薬物治療
「がんによる筋力低下(悪液質)を遅らせられれば、患者さんの苦痛を大きく減らせる」と考えている専門家はたくさんいます。
しかし、残念ながら、この悪液質に対する薬による治療は非常に難しいのが現状です。
治療薬の現状:効果は限定的
現在、悪液質の進行を食い止めるための効果的な薬はほとんどありません。
- 薬が少ない:悪液質の進行を予防する効果が期待できる薬がそもそも少ないです。
- 効果が弱い:期待される効果も限定的で弱いです。
- 科学的根拠が乏しい:これらの治療法の科学的な裏付け(エビデンス)がまだ十分ではありません。
わずかな望みがある治療法
それでも、「少しでも効果があるかもしれない」として研究されているのは、以下のような治療法です。
- 栄養指導
- 特定の栄養素や薬:
- EPA(エイコサペンタエン酸)や DHA(ドコサヘキサエン酸)
- カルペチリド
- 分枝鎖アミノ酸
- サリドマイド
- ステロイド
注意点:進行してからでは遅い
これらの治療法にも共通して言えるのは、次の点です。
- 科学的根拠が乏しい:まだ「確実な治療法」と断言できる段階ではありません。
- 早期開始がカギ:悪液質がかなり進行して体重減少が顕著になってから治療を始めても、効果はほとんど期待できません。
つまり、効果が期待できるのは、まだ体重減少が起きていない非常に早い段階に限られています。
この分野は研究途上であり、現在「進行したがんによる悪液質を逆転させる特効薬」はない、というのが実情です。
エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)
悪液質に対するエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の効果については、多くの研究が行われていますが、その結果は一貫しておらず、科学的な結論はまだ定まっていません。
しかし、これらのオメガ-3系脂肪酸の役割を評価し、一部の有用性を示唆しているレビュー論文やシステマティック・レビューが複数存在します。
- n-3 Fatty acids, cancer and cachexia: a systematic review of the literature
- 概要: 癌患者におけるn-3脂肪酸の臨床使用に関する推奨を目的としたシステマティックレビュー。
- 着目点: 専門家パネルは、進行がんおよび体重減少のある患者、特に上部消化管や膵臓の腫瘍を持つ患者において、1日あたり少なくとも のEPA/DHAを長期間投与することで、体重、食欲、QOL(生活の質)、生物学的パラメータが改善することに関連しているというグレードB(合理的な科学的根拠)のエビデンスを確立したと示されています。
- n-3 Fatty acids, cancer and cachexia: a systematic review of the literature
- 進行度: 前提の文章にもあったように、多くの研究では、悪液質が進行する前の段階、または化学療法を受けている患者において、体重維持などの面で利益が見られる可能性が示唆されています。
- 全体的な結論: EPAやDHAは抗炎症作用を持つため、悪液質の原因となる炎症を抑えることで筋力低下を緩和する可能性はありますが、悪液質を完全に逆転させる特効薬として確固たる科学的根拠はまだ確立されていません。
効果を得るためには一日1〜2g程度のEPAを内服する必要があるらしい。かなり大量に飲まないと効果がないし、たくさん飲み過ぎると副作用も出やすいようです。
分枝鎖アミノ酸
グルタミンやロイシン、アルギニンがセロトニン活性を低下させて、食欲が増加させるこうが期待できるようです。
Eley, Helen L., Steven T. Russell, and Michael J. Tisdale. “Effect of branched-chain amino acids on muscle atrophy in cancer cachexia.” Biochemical Journal 407.1 (2007): 113-120.
分枝鎖アミノ酸には筋肉のタンパク質の分解を防ぎ、筋肉のタンパク質の合成を促進する作用があります。ボディービルダー等が筋トレ前にアミノ酸を飲むのはこの効果を期待してです。
ステロイド
抗炎症作用のあるステロイドは進行した悪液質の症状を改善する作用があります。
例えば、プレドニゾロンなどのステイロドを内服するとしばらくの間食欲を改善させる効果があります。
ただ、食欲増進の効果は一時的であり、副作用(消化管出血、感染など)があるため2週間の使用になるようです。
体重が増えることはありますが、筋力増加作用はありません。
サリドマイド
強力な炎症性サイトカインであるTNF-αの産生を抑え、抗炎症作用があるといわれています。
Gordon, J. N., et al. “Thalidomide in the treatment of cancer cachexia: a randomised placebo controlled trial.” Gut 54.4 (2005): 540-545.
ガン悪液質に対して、合理的なアプローチですがまだ一般的に認知されていません。
副作用に眠気や発疹、意識障害、頭痛、血栓が生じることがあるといわれていますので、適切な使用量、使用方法が重要になってくるとおもいますが、まだ推奨するには科学的な根拠が足りず、良い使い方を模索している段階だと思われます。
栄養指導
悪液質(がんによる極度のやせ)に対する栄養指導は、薬物療法とは異なり、すべての患者さんにとって最も基本的かつ重要な治療アプローチとして位置づけられています。
しかし、その効果は、病状の進行度や栄養指導をいつ開始するかによって大きく異なります。栄養指導の主な目的は、がんによって引き起こされる異常な代謝の状態に対抗し、できる限り筋肉量と体重を維持することです。
- 体重減少が始まる前(悪液質予防期)**に介入することで、悪液質の進行を遅らせる、または予防する効果が最も期待されます。
- 悪液質が進行した段階では、体重や筋肉量の回復は困難になりますが、さらなる急激な減少を食い止め、QOL(生活の質)を維持することが目標となります。
- 最も効果が認められるのは、運動や薬物療法と組み合わせた集学的治療の中で、専門家(管理栄養士、医師など)による個別化された指導が行われた場合です。
結論として、栄養指導は悪液質治療の「土台」であり、効果的な予防と進行抑制のために、病気の早い段階で専門家に相談することが極めて重要です。
リハビリなどの筋力トレーニング
リハビリをして筋肉をつけたいとか筋力を維持したいと希望されるガン患者はたくさんいると思います。
前立腺ガンの体重減少が生じていないような段階の悪液質の前段階では適切な筋肉トレーニングや持久性トレーニングを行うことで、慢性炎症が改善し、疲労感、食欲が増進するようです。
Segal, Roanne J., et al. “Resistance exercise in men receiving androgen deprivation therapy for prostate cancer.” Journal of clinical oncology 21.9 (2003): 1653-1659.
悪液質が進行した終末期患者のリハビリテーションを理学療法を行なっても、筋力低下の進行の速度の方が速いので、筋力回復の効果は期待できないという考えが一般的です。
終末期のリハビリテーションで行うことは、筋力回復ではありません。筋力が落ち歩けなくなった人が歩けるようになったという話はほとんど聞きません。
筋力の低下を補う杖歩行の仕方を覚えたり、転びにくい歩き方を指導をしていただけます。終末期は今以上の苦痛が増えないように工夫する段階です。
終末期の患者が体力や筋力の衰えと直面すると、多くの患者は「リハビリして筋力をつけないといけない。」と思うようです。
「リハビリ」という言葉に希望がありますが、歩くのでさえやっとこさの患者が筋力アップを期待してレスタンスとレーングや持久性トレーニングを行うことは痛々しくもあり、やってはいけない医療行為とされています。
リハビリをして元気になりたいという気持ちをサポートすることは大切だと思いますので、カウンセリング的な意味合いを込めたリハビリは必要かもしれません。
まとめ
- ガンによる体重減少を抑える有効な薬物療法はまだ開発途中。食事療法で悪液質の進行を抑えることは難しいようですが、運動療法は早い段階から行うと効果がありそうです。
- 筋力低下により様々な症状や日常生活の不具合が生じてくるつらさを完全に解消することは難しいので、心のケアをしながら、終末期をサポートしていく必要がありそうです。
悪液質が及ぼす体の不自由さや辛い症状は避けては通ることはできません。
しかし、筋力が落ちてきたときのことをあらかじめ想定し、今の生活を出来るだけ長く送れるような準備をしておくことは可能です。
筋力が落ちてきたら、家族の助けや他人の助けが必要になります。
そのためには、患者の療養場所を家族の近くに選んだり、家族の仕事の調節の準備をしておけますよね。
ある程度筋力が弱まってからでは治療をしても遅いようです。それより、現実的な対応策を調整した方が建設的なようです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。


コメントを残す