目がしっかり覚めているか?
意識状態は大まかに3段階に分けて考えるのが一般的です。
- 目は開けているが、ボンヤリしている段階
- 声をかけるとか体を揺らすとか刺激を与えないと目を開けない段階
- 目を開けない段階
これは、救急医学で意識の段階を客観的に測定するJCS(japam coma scale)という指標で利用されています。
救急ほど早く意識状態の悪化はみられませんが、ガンの進行による意識状態の悪化も3段階を経て悪くなっていきます。
それでは意識状態の3段階について詳しく説明しますね。
第一段階
ガンが進行すると、目は開けているが、つじつまのあわないことを言うようになります。自分がどこにいるのか分からなくなり、場合によっては自分の名前を言えなくなります。
典型的なのは、病院にいるのに自宅にいるような発言をします。会社に行かないといけないとか、畑を見に行かないといけないなどの発言もよく見られます。
いるはずのない友達がそこにいるようなことを言ったり、点滴のラインが蛇に見えたり、何か恐ろしいものに見えたりします。恐ろしいものに見えるため点滴を引っこ抜くこともあります。
本人に「なぜ抜いたのか」質問しても、意識状態の悪化に伴い記憶力も判断力も低下しているので納得のいく回答は得られません。
目を開けているが、ちゃんと目が覚めてないこの段階が意識の第一段階。
幻覚が見えたりするのは意識レベルが相当悪くなっています。軽い程度の意識レベルの低下であれば、テレビを見ないとか新聞を読まないとか、スマホをいじらなくなるなどの行動が見られます。
第一段階の意識状態の悪化を注意深く観察することで遺された時間を把握できます。
第二段階
さらに病気が進行すると、「目が覚めている」状態を維持できなくなります。
初めは声をかければ目を開けれますが、だんだん、体を揺する等大きな刺激を与えないと目を開けなくなります。
「○○さん、分かりますか」と大きな声で目を開ける程度になり、そのうち体を揺すらないと目を開けないようになります。
傾眠と呼ばれる状態であり、この段階が意識状態の第二段階です。
第三段階
さらに病気が進行すれば脳幹の働きはさらに低下し、何をしても目を開けないようになる。痛みを与えたりすれば体をよじる程度になります。
いわゆる「こん睡状態」である。
この段階の意識状態が第三段階です。
「危篤状態」という言葉を聞いたことがあると思います。危篤というのは、この第3段階をさすものだと思います。
第3段階では、脳の機能はかなり破綻しています。
第二段階までいけば誰でも「そろそろお別れが近づいてきている」と分かると思います。
第一段階で気づくにはどうしたらいいのでしょうか?
第一段階の進行のプロセス
多くの患者は「注意力の低下」→「不合理」→「せん妄」→「傾眠」→「昏睡」というプロセスを経て死を迎えるといわれています。
不合理とはつじつまの合わないことです。
せん妄とは難しい言葉であるが、見えるはずのないものが見えたりすることを言います。
傾眠とは眠りやすくなる状態、眠っている時間が多いような状態です。
昏睡とは呼びかけても目を開けない状態をいいます。
「注意力の低下」が現れると、「なんか最近だめだ」「携帯電話がうまく使えなくなった」と患者本人が言うようになることが多いです意識状態の低下の初期症状の本人の自覚症状としては、自信の喪失があります。
「あんなにしっかり日記をつけていたのに、書かなくなったんです。」
「物覚えが悪くなったみたいで、すぐ忘れちゃうんです。」
ちょっと調子が悪くなってきたような気がすると家族が訴えるようになります。注意力低下の他人から見た初期症状としては、「頼りなく感じる」ことが多い。
この時点では本人と話をすればほとんど受け答えは問題なくできるし、話の筋が通らないことはないので、体は衰えてきたけれど頭は大丈夫のような感じを受けます。
「最近急に頭が衰えてきた気がする」という患者自身としての自覚症状は意識レベルが徐々に低下してきていることを暗示しています。
家族が患者を頼りなく感じるようであれば、病気が進行し脳の機能が低下してきていると判断するべきです。
すでに注意力がなくなっていることから、ガンは進行し、悪液質により脳内の物質バランスが壊れてきているか、脳への血流や栄養供給は低下していると考えます。
「注意力の低下」からさらに意識状態が悪化すれば、「不合理」という状態になります。難しいことを考えれなくなり、話のつじつまが合わなくなります。
周りから聞いていると話の筋が通らないし、突然全く関係ない話をしだすことがあります。
周囲の人からすれば話の道理に合わないのであるが、病気の本人は道理が通っていないことに全く気づかないこともあります。
「今日はいかがですか?」という質問に対し、「すいません、みなさんにご迷惑をおかけして。」といった回答をするわけです。
会話が少しズレるだけですので、おかしいとは感じにくいです…全く的外れな回答をするのではなく、やや外れた回答をする方が多いような気がします。
家族からすると、なんかおかしなことばかり言うように聞こえたりします。よくある症状は分かった振りです。
「ここがどこか分かりますか?」と質問すると、「分かりますよ」と自信満々な振りをします。
でも「何処ですか。答えてください。」と言うと、答えることができません。
頑固者のお父さんが、急に聞き分けが良くなり、素直になるのは病気が進んできたかもしれないという気持ちで接する必要があります。
「不合理」状態になると、話していることの記憶が残らないことが多くなります。
これは意識とは直接関係ないが、「不合理」な状態のときは、記憶する機能も落ちてきているのでしょう。
「不合理」の状態がさらに進むと、時間感覚や今どこに自分がいるかはっきりしなくなるようになります。
「不合理」が現れたら、余命は一か月は切っていると考えなくてはなりません。
不合理の段階を過ぎるとと脳のいろいろな機能も低下しますので、飲み込みの機能が悪くなったりして、誤嚥したりすることもあります。
つまり、急激に病状が悪化するリスクが増えるということです。
さらに意識状態が悪化すれば、幻覚を見るようになります。この状態を「せん妄」といいます。
せん妄が現れたら、脳全体の機能が相当落ちてきていると考えてほしい。
知らない人が近くにいるとかいない人をいるように感じるようになったり、電気コードが蛇に見えたりするようです。
点滴のラインも蛇に見えたりするので、引っこ抜くこともあります。
夜中なのに家に帰ろうとしたり、家にいると思い込み、看護師や医師を娘や息子と思いこんだりします。逆に娘や息子を医者や看護師と思い込んでしまうこともあります。
つじつまの合わないことを言い出したらそろそろ寿命が近いということを心に留めておかなくてはなりません。
せん妄が現れたら、お別れまで1~2週間のことが多いです。永遠の別れが、すぐそばまで来ているということです。
ガンが進行すると、多くの方が意識障害をきたし、ときに幻覚を見るようになることを終末期せん妄といい、かなり多くの方が終末期せん妄になります。
お別れが近づけば、幻覚をみることは普通のことなのです。
家族が患者を頼りなく感じるようであれば、病気が進行し脳の機能が低下してきていると判断し、建設的な行動をとるべきでしょう。
意識状態の変化をみることで、残りの時間を推定できることを、理解していただけたと思います。
最期の一ヶ月間を後悔なく過ごすには、残りの時間をある程度予測することは大切ですよね…
もし、今まで毎日新聞を読まなくなったり、テレビを見なくなってきているならお別れは一ヶ月以内であることを想定し、合いたいヒトにあっておいたり、伝えておきたいことは伝えておいてほしいです。
- 患者の意識の状態というのは観察すれば誰でも分かることです。
- 意識の状態を判断して余命を判断し大切な時間を有意義に過ごす。
- 残されるものが後悔のない最期の時を過ごしてほしいのです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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