多くのがん患者さんは、徐々に体力が衰え、穏やかに最期を迎えます。しかし、がん患者全体の約10%は、予想よりも早くお別れが来る「急変」を経験すると言われています。
がんで命を落とす原因の一つに出血があります。少量ずつの出血が続き、重度の貧血で亡くなることもありますが、急変の場合は大量出血が突然生じることが多いようです。特に、胃がんや肝臓がん、喉頭がんなどで見られることがあります。
呼吸機能の低下や少量出血の場合は、数日から数週間かけてゆっくりと最期に向かいます。しかし、大量出血はわずかな時間で命を奪い、突然の別れとなります。
出血による急変は、患者さん本人もご家族も心の準備をする時間がほとんどないため、非常に衝撃的な出来事となります。
急激な出血
がんが大きくなると、その組織は周囲の血管に浸潤(食い込む)し、出血のリスクが高まります。
動脈の壁はもともと丈夫ですが、がんの浸潤によってもろく硬い組織に変わってしまうと、破れやすくなります。
出血が止まりにくい理由
「出血したら、止血すればいい」と考えるかもしれませんが、がん組織に囲まれた場所では、止血は簡単ではありません。周囲の組織がもろくなっているため、小さな動脈からの出血でも、大量出血につながってしまうことがあるのです。
例えば、お腹の中でがんが出血した場合、外科的な止血手術は現実的に非常に難しく、出血しないことを願うしかありません。首まわりの喉頭がんなども、重要な血管を破り、突然の出血を引き起こすことがあります。
また、脳への転移が出血することもあり、その際は片方の手足が動かなくなり、急激に意識を失うことがあります。
このように、がんが血管に浸潤することは、患者さんの命を脅かす大きな原因の一つなのです。
大出血(下血・吐血)が起こった時、何が起きるのか
がん患者さんが、腸管内で大出血(下血や吐血)を起こした時、ご家族はとても驚き、パニックになるかもしれません。しかし、意外にも、患者さん本人は痛みや苦しさを感じていないことが多いのです。
出血直後の患者さんの状態
腸管内での大出血が始まったばかりの頃は、意識がはっきりしている場合がほとんどです。
「痛みはありますか?」と尋ねても、「全然大丈夫です。痛みも苦しさもありません」と答える方もいます。
これは、体が重要な臓器(特に脳)に血液を集めようとする機能が働くためです。大量に出血していても、一時的に意識を保てるのです。しかし、冷や汗をかいたり、少し反応が鈍くなったりすることもあります。
穏やかな最期へ
出血が止まらないと、徐々に意識が薄れ、昏睡状態となり、眠るように静かに最期を迎えます。
この時、吐血や下血の見た目は非常に衝撃的ですが、患者さんは苦しさを感じていないことが一般的です。
大出血が始まってから最期を迎えるまでの時間は、数時間から半日ほどです。臨終は突然訪れるのではなく、眠るように、穏やかに迎えることが多いのです。
腹腔内出血
終末期の腹腔内出血は、患者さんにとってもご家族にとっても非常に辛い最期の一つです。同じ出血でも、腸管内での出血とは異なり、腹部に激痛を伴うケースが多く見られます。
なぜ腹腔内出血は痛いのか
腸管の外、腹腔内に出血が起こると、血液が腹膜を刺激し、激しい痛みを引き起こします。この痛みは、意識が薄れるまで続くこともあり、患者さんは苦痛から悶絶してしまうこともあるようです。
がんの終末期には、腹部の急な痛みが起きた場合でも、それが単なる出血なのか、それとも腸に穴が開いたためなのかを詳しく調べる前に、命が尽きてしまうケースがほとんどです。
肝臓がんが破裂した場合などは、激痛とともに血圧が急激に下がり、あっという間に心停止に至ることもあります。
このような最期は、ご本人もご家族も心の準備ができていないため、非常に不幸な出来事です。しかし、このようなケースも起こりうるということを知っておくことは、いざというときの心の備えにつながるかもしれません。
脳内出血
脳の転移巣が出血すると、脳内出血となります。脳内出血を生じると、半身麻痺になったり、意識状態が急激に悪化します。
がん患者の場合、血を止める力が弱くなっている場合も多く、大きな脳出血になりやすく致命的になりすいようです。
急変は決して稀なことではないのです。常に急変する可能性があることを心の片隅に置いておく必要があります。
ここまでお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。
この記事が、最期の迎え方に対する漠然とした不安を和らげ、心穏やかな看取りへの一助となれば幸いです。
他にも、終末期に関する記事を多数ご用意しております。ぜひ、そちらもご覧いただき、ご自身の心の準備や、大切な方へのケアにお役立てください。


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