- 体は痩せてきたのにお腹がぽっこりしてきた。これって腹水じゃないの???
- 手足がむくんでいるけど、顔はげっそりしてる!
- 医者に腹水がたまってきたと言われた。
腹水が何かということを理解せず、必要以上に不安になっている人は少なくありません。
「お腹の水を抜けば、病気が少し良くなるんじゃないかな?」と誤解している人もいます。
この記事を読んでいる方で、なぜ腹水が溜まるのか?ってことを知らないのなら、まず腹水について理解してください。
腹水の原因について理解していただければ、残されている時間という話につながっていきます。
まずは腹水について理解していきましょう。
そもそも、腹水ってなんなの?
腹水は一般的に使われれる言葉ではありますが、なぜ腹水が生じるのか?どれぐらい病気が進行してきたのかとか、治るのか?など詳しい知識を知らないという人は少なくありません。
お腹に水が溜まると一般的に言われてる腹水について、理解を深めましょう。
もしかすると腹水について正しく理解するとつらい気持ちになるかもしれません。
しかし、残された時間がどれぐらいなのかということを見誤らないためには、正しく病気について理解することは重要です。
腹水の原因について
腹水は正常の人でもわずかに存在しています。
正常の人は腹水の生産と吸収のバランスが保たれているので、全く問題になりません。
がん末期に多量の腹水や胸水が生じてしまうのは、腹水の生産と吸収のバランスが崩れてしまっているからです。
腹水の生産が増える原因として癌性腹膜炎があります。
炎症を生じると周囲の組織が赤く腫れますよね。蚊に刺されて腫れるのが炎症です。
強い毒を持った虫に刺された後に、刺し口からリンパ液が漏れたことがあると思います。
血管から漏れ出した、リンパ液が腫れる原因です。
がん細胞の周囲は炎症を生じているので、周囲の組織は腫れています。
しかし、腹膜(腸の表面の膜)にがん細胞が転移すると周囲に組織がないので、体液がお腹の中に漏れ出し、腹水として溜まっていきます。
イメージが湧きにくいかもしれないので、体の表に転移した場合について考えてみましょう。。
もしガンが体の表面に転移し、がん細胞の崩壊したイメージをしてください。
ガン細胞はみずみずしく、常にリンパ液のような液が漏れ出し続けると思います。
体の表面でなく、お腹の中で同じようなことが生じているのです。
進行の早い炎症性の高いガンは腹水が溜まりやすいと言われています。
腹水が吸収が減る原因
腹水を吸収するのは血管です。つまり血液です。
血液内のアルブミンが増えれば浸透圧が上がり、血管内に水を引き込むことができます。
腹水の吸収が減るのは、アルブミンが少ないからなのです。
腹水が溜まり、張った感じが生じてしまうような状況では、食べても食べても筋肉にならないし、食べているのに体重が落ち、顔や腕はガリガリに痩せています。
がん細胞は自分が大きく成長するために、体中のタンパク質を分解してエネルギーに変えます。さらに、栄養吸収という大切な仕事にすらエネルギーを使えなくなってしまいます。
水分を吸収するために必要な血管内のアルブミンも分解され、生産されなくなってしまうのです。
もうご存知かもしれれませんが、エネルギーの利用と吸収の破綻を悪液質といいます。
腹水の増加はガンがもう後戻りできないほど勢力を伸ばしてきている兆候といえます。
化学療法や放射線療法など一連の治療を行い、腹水が多量に溜まりだし、張る感じが生じてきたときは、もう後戻り出来ないという点を理解し受入れなくてはなりません。
腹水の原因がガンだけではないことを知っている人もいると思います。
たしかに、腹水や胸水が増加している原因の一つに心不全や肝硬変などもあります。
しかし、ガン患者の場合、腹水の原因のほとんどは悪液質か癌性腹膜炎です。
リンパ節転移とかでも腹水がたまる原因になりますので、「など」とさせていただきましたが多くは悪液質と癌性腹膜炎が原因です。
腹水が生じやすいガン
すべてのガンで腹水を生じるわけではありません。
発生する癌の場所によって腹水ができやすいタイプがあります。
脳腫瘍では腹水は生じにくいですし、肺癌で腹水でこまったという話はあまり聞きません。
腹水が生じやすい癌は横隔膜より下のガンです。ちなみに横隔膜は肋骨の下のほうにくっついていて、肺を取り囲んでいます。しゃっくりの原因となる呼吸するときに使う筋肉です。
腹水を生じる具体的な名前をあげると、卵巣がんや子宮癌、胃がん、膵がん、結腸癌です。この5種類で腹水の8割を占めます。
肝臓癌も腹水を生じやすいですが、母数が少ないので上記のようになっています。
胃癌や膵臓癌は炎症性が高く、卵巣癌や子宮癌は腹膜転移しやすいので腹水が作られやすいのです。
肝臓への転移が大きくなり腹水を生じる場合もあります。
腹水があると診断されたときには、既に病気がかなり進行してます。
生産と吸収のバランスは崩れており「腹水がある」と診断されたときには、すでに1リットル以上の腹水がたまっていると言われています。。
腹水が300〜500ccたまっているだけでは症状はほとんどなく、見た目もそれほど目立ちません。CTで検査すれば確認できる程度です。
「腹水でお腹が苦しいなぁ」と感じる時は、かなり進行してしまっているのです。
お腹がぽっこりしてきた原因が腹水だと診断されたら、生命活動は破綻しかかっているというサインなのです。
腹水が認められてからどれぐらい生きられるの?
ここからが本題ですね。腹水と診断されてから、どれぐらい生きられるのか?
大変厳しい数値なので、驚かれると思います。
2000年のデータですが、腹水と診断された後の余命の中央値は膵がんで11週、卵巣がんで31週、胃がんで11週、悪性リンパ腫で58週と言われています。
中央値とは全体の真ん中の数値です。
例えば,「1,2,3,4,20」という5つの数値の中央値は3です。平均値は6になります。中央値はとんでもなく大きな数値に左右されない統計学的な表し方です。
化学療法が効かない場合、腹水が認められたら余命は2〜3ヶ月が多いようです。
化学療法の効果が続けば、当然余命は長くなります。
腹水でお腹がパンパンで痛苦しい感じ、腹水でお腹が重く動きにくいという症状があれば、余命は一ヶ月未満が多いように思います。
腹水の症状が出たら余命が数ヶ月という結果は短いと感じる方のほうが多いでしょう。
残念ですが、あまり時間はないのです。
しかし、病気を正しく理解し、しっかりと前を向いた時間の使い方をしてほしいと思います。
腹水を減らす治療と腹水の症状を減らす治療
先に述べましたが、根本的に腹水減少に効果があるのは化学療法です。
化学療法でガン細胞を減らさないと腹水は減りません。
栄養療法や民間療法は腹水が増えるのを遅くする効果があるかもしれませんが、減らすことは出来ません。
腹水を抜く,輸液を少なくする、尿を出すなどの方法がありますが、症状を軽くする緩和的な治療です。根本的に腹水を減らしているわけではありません。
腹水を抜くという治療は楽になりますが、すぐに腹水が溜まってしまいます。
腹水を抜く体力がなくなったらどれぐらい生きられるの?
腹水で苦しくなると、多くの医療機関では腹水を抜くという医療行為をするでしょう。
腹水を抜いたときは、本当に楽になります。
いままでポンポンに張っていたお腹がぺちゃんこになると、食事が出来たり、寝返りが打てたり、自分でトイレに行けたりできるようになります。
でも、腹水を抜いても、すぐに腹水は溜まりだします。
翌日には同じようなお腹になっているなんてことも少なくないでしょう。
腹水がまた溜まるということは、体のどこからから腹水のための水分とタンパク質が集まってきているわけです。
腹水の成分は水だけではありません。タンパク質、電解質などいろいろな成分から腹水が出来ているので、腹水を抜いた分だけ、体力が奪われてしまうということは想像に難しくないと思います。
腹水を抜いている最中に血圧が異常に低下したり、意識がもうろうとしてしまうようになると、腹水を抜くことが出来ません。
腹水を抜くという医療行為自体が命を奪いかねないからです。
腹水を抜けなくなったとお医者さんが判断したということは、病状が悪化しており、お別れが近いということです。
どれぐらい近いかというと週単位です。
一週間、一週間を大切に生きる病状になっていると心づもりをしてください。
腹水を抜いている途中で血圧が下がったり、気を失うことがある場合も、おそらく二週間以内でお別れになるでしょう。
藁にすがるような治療は辛さが増える
諦めず病気と戦うことが無知であり痛々しく感じるときがあります。
理不尽ですが、この世には治らない病気があります。
高額な民間療法や高額な保険適応外の治療は本人だけでなく、家族も苦しめます。
諦めることは不道徳ではありません。
むしろ諦めないことで、高額な医療費がかかり、残された家族が辛い結果になってしまったという話は跡を絶ちません。
ガン終末期において、治療に対する諦めは辛い選択ですが、治りもしないのに治療を続けることはもっと辛い事かもしれません。
腹水のコントロールが難しくなっているというのであれば、残された時間を大切にする時期だと判断する方が賢明です。
緩和的な治療をすれば、辛い腹水の症状が軽くなり、普段の自分に近い状態で過ごせるようになります。
その時間は短いかもしれませんが、少しでも穏やかに過ごすほうが賢明です。
健康保険の範囲内で使用されている化学療法が効かない腹水が現れたら、残された時間と向き合い、穏やかに過ごすための治療法を選択してゆくことが大切だと思っています。
病気に負けたくない、諦めたくないという気持ちは痛いほど理解できます。
奇跡が起きる可能性は否定しません。
しかし、現実的には患者とその周囲の家族らに残されている時間はそれほど長くありません。
効果の薄い治療に、わずかな希望を持ち、努力し、貴重な時間を費やし、打ちひしがれてゆく姿は残念でなりません。
この記事を読み、つらい気持ちになってしまった方がいるかもしれません。
大きな決断をしなくてはならない時、自分に合った選択を決断する参考にしていただきたいと思い書かせていただきました。